Office with material 日本のオフィスはなぜ、均質でグレーなんだろう?

2016.1.15 | TEXT

3面が窓の明るいオフィス。ビビットな色合いの床材が映える空間。

3面が窓の明るいオフィス。ビビットな色合いの床材が映える空間。

 

仕事と遊びを一緒にするな!ちょっと前の時代に、会社では常套句にすらなっていたフレーズ。日本のオフィスが置かれていた状況を象徴しているような気がする。昨年のトークイベントでイデーの川渕恵理子さん(株式会社イデー常務取締役)が話していたことを思い出す。

 

『かつて「働く」という言葉の英訳は「labor」だった。それは使役を意味する。そして今、「働く」は「work」と訳されている。次の時代それは「play」と訳されるようになるんじゃないかな。』

 

時代に応じて、働くということの目的や意味は変化している。

確かに、今僕たちは働くことを「work」と思っているかもしれないが、求められる成果が合理性から創造性に変わってしまった組織にとって、働くことの意味もスタイルも、変わっていくだろう。

 

Googleやappleのようなクリエイティブのトップを走っている企業のオフィスは、まるで公園や遊園地のような遊び心に溢れている。そこから高い創造性と生産性が生まれているとするならば、次のオフィスの風景はそっちに向かっていくと考えるのが必然かもしれない。

 

 勤勉な日本では、仕事においても均質な一体感が求められた。それが整然と島型に配置された、色彩のないグレーでストイックなオフィスの風景をもたらした。

 

ちなみに僕は、それに否定的な印象はあまりない。実際、そんな空間で長く、落ち着いて働いてきた。過去の日本においてはその空間が高い生産性や競争優位性を獲得してきたのも確かだ。

 

でも、それは歴史上の出来事になろうとしている。現在、日本の生産性や競争力は世界的に見て、必ずしも高水準にあるとは言い難い。

新しい企業、組織はどのような働く空間を求めているのだろうか?このプロジェクトは、その答えを考えるきっかけとなった。

 

 

色と素材で働く空間は変わるか?

築25年のオフィスビル。エントランス部分もリノベーション し、イメージを刷新した。

築25年のオフィスビル。エントランス部分もリノベーション
し、イメージを刷新した。

 

この神田須田町のプロジェクトとは、築25年のオフィスビルのリノベーションで、入居者は部屋の間仕切り位置と床材を選ぶことができる。

 

普通のオフィスは、賃貸募集の時に既に壁紙や床のタイルカーペットが仕上がっている。入居者の自由と言えば、そのオフィスに入れる家具を選ぶことぐらいだろう。それでは相変わらず僕らの仕事場はグレーな世界から抜け出せない。

貼る床材の色を2色にし、貼り方も変えてみた。

貼る床材の色を2色にし、貼り方も変えてみた。

3面が窓の明るいオフィス。ビビットな色合いの床材が映える空間。

3面が窓の明るいオフィス。ビビットな色合いの床材が映える空間。

 

このプロジェクトでは、床材はあらかじめ用意されたマテリアルブックの中から、好きな色、好きな素材、好きなパターンを選択することができる。

 

『床材を変える。』たったそれだけだけど、空間の予想は一気に変わる。自分たちの空間を、自分たちの色に染めることから始めることができる。しかも特別な追加料金なしに。

※ 1月中旬までに入居申込の場合、選択が可能。

 

 

マテリアルブックとは?

用意した床材は見た目も様々。一見木材のように見えるものも、実はタイルだったりする。

用意した床材は見た目も様々。一見木材のように見えるものも、実はタイルだったりする。

 

ここで用意した、マテリアルブックとは?

 

「フェイク」を素材キーワードにしてみた。塩ビタイルだけど木に見える。丈夫なリノリウムなのに、微妙な織りが入っていて布にしか見えない。材料って面白い、いろんな工夫がされている。そんなフェイク素材を積極的に集めてみた。

見た目だけでなく、色も様々。カーペットでも、思い切った色合いにして楽しんでほしい。

見た目だけでなく、色も様々。カーペットでも、思い切った色合いにして楽しんでほしい。

 

もう一つキーワードにしたのが、色合い。グレーなオフィスから強引に脱却するために、鮮やかな発色を選択可能とした。

 

3面が窓の明るい部屋なので、昼間は外からの光が床に反射し、空間全体を床の色が包み込む。逆に夜は照明の光が反射して、外から見るとぼんやりと不思議な色彩の空間に見える。

 

 

エントランス空間に中間領域を作ってみた

エレベーターを降りると、そこにラウンジがある。少し広いため、ここでちょっとした打合せもできる。(写真はプラン2)

エレベーターを降りると、そこにラウンジがある。少し広いため、ここでちょっとした打合せもできる。(写真はプラン2)

ラウンジと執務室を区切る引戸と開戸は鉄でつくった。無骨で存在感がある。

ラウンジと執務室を区切る引戸と開戸は鉄でつくった。無骨で存在感がある。

 

エレベーターを降りた空間にラウンジをつくってみた。このラウンジも、部屋の間仕切り位置を選ぶことによって、広さが変わってくる。

 

間仕切り位置は、2種類から選べる。

 

プラン1はラウンジが、プラン2は執務室が広くなる。コンパクトなオフィスの場合、エントランス空間が小さくてちょっと寂しい。このプロジェクトでは、エントランスを大きめに設定し、そこでちょっとしたミーティングや接客が出来るような場とした。

 

プラン1は間仕切りがガラスの引戸で、開きっぱなしにしておけば一体空間として捉えることもできる。 プラン2は間仕切りが小窓付の壁と無骨な鉄製の開戸なので、エントランスと執務室をしっかり分けたい方に良さそうだ。

プラン1は間仕切りがガラスの引戸で、開きっぱなしにしておけば一体空間として捉えることもできる。
プラン2は間仕切りが小窓付の壁と無骨な鉄製の開戸なので、エントランスと執務室をしっかり分けたい方に良さそうだ。

 

小さな工夫で仕事は変わるか?

どれも、細やかで小さな工夫だ。でも、ちょっとしたことで働くモードや、コミュニケーションの機会はドラスティックに変化する。

 

均質でグレーな空間からはやはり、均質でグレーなアウトプットが生まれてくる気がする。だったらまず、手っ取り早く空間の質感を変えてみよう。それによりどんな効果が生まれるか。

 

これがこのプロジェクトのメッセージだ。

(文=馬場正尊)