夏の山形より、酷暑が生んだ「冷やしカルチャー」

2015.2.16 | TEXT

山形の大学に通うようになってもう7年目になる。この街の文化もかなりカラダに染み込んできた。今回はその一つ「冷やしカルチャー」について紹介する。僕は地域の風土が生み出す、ちょっと風変わりな慣習が好きだ。

まずその代表が、冷やしラーメン。冷やし中華ではない、あくまでラーメンである。たっぷりとしたスープのなかに麺と氷が入っている。味はさわやかで、夏に汗をかきながら食べるラーメンも捨て難いが、山形ではやはりこれである。「栄屋本店」(山形市)という店が始め、街じゅうに広がったというウワサがあるが定かではない。店ごとに工夫されたスープが味わえる。スープの合間にガリガリと氷をかじる食感がなんとも言えずクセになってしまう。

そして、最近体験したのが、冷やしシャンプー。山形では夏になると、飲食店の軒先にかき氷の旗が出るように、床屋に「シャンプー。冷えてます」のメッセージがはためく。

盆地の山形はフェーン現象で夏は40℃を越える日もあり、20年間日本の最高気温記録を保持していた、日本有数の酷暑の街なのだ。だからいろんなものを冷やす傾向にある。冷やせばなんでもいいというわけではないが、この冷やしシャンプーは、とにかく気持ちよかった。キンキンに冷えたシャンプーがほてった頭にツゥーとつたう。そこに氷水でわしゃわしゃと洗ってくれる。ダメ押しがメンソールで、頭のなかでは氷の平原の風景が広がる。もう夏の散髪はこれなしではいられない気がする。

エアコンのない時代、この気持ちよさのインパクトはどれほどのものだっただろう。酷暑の山形を楽しむ知恵である。夏の山形を音尋ねたときは、山寺で岩にしみいる蝉の声を聞いた後に、まちなかの床屋に入って「カットと、冷やしシャンプーで」とオーダーしてみるのはいかが。旅先では、何気ない地域の日常の一端を感じたいですよね。

 (ちなみに、おしゃれなサロンでも、ちゃんと冷やしシャンプーやってます)

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*こちらの記事は季刊誌『オルタナ38号(2014年9月29日発売)」に掲載された記事です。オルタナ

(文=馬場正尊)