時間と制度の隙間に浮かぶ、大阪大正区 船上バーの夜

2015.2.16 | TEXT

リノベーションの相談を受けて、大阪の大正区に行って来た。この街は独特の地形をしていて、まわりを運河が取り囲み、区全体が島状になっている。区民のおよそ1/4が沖縄出身者で、街を歩くと「比嘉」「新垣」といった看板が目につく。商店街では三線の音がどこからともなく聞こえてきて、自分がどこにいるのかわからなくなった。

「大阪×沖縄」の組み合わせはおそらく日本最強で、大阪のノリと沖縄の踊りや泡盛が加わって、宴会ではずっと大騒ぎ。異様に体力を使う街だった。極めつけは大正区長で、自ら三線を奏でて沖縄民謡を歌う。さまざまな要素が混ざり合った、どこかシュールな空気が流れる街だ。

この日は、grafの服部滋樹さんらと一緒に船に乗せてもらった。graf発祥の地がここ、大正区らしい。思い出の、そして伝説の場所でもある。水側から眺める大正区は圧巻で、かつて栄えた巨大な造船所や、錆びたまま放置された建築群が異様な迫力で迫ってくる。僕らは興奮しっぱなしで、一時間の大正区ツアーを楽しんだ。

最後に船が着いたのは、合法と違法の隙間に浮かぶ水上バーである。かつて物資の荷下ろし場であった一帯には、今でも多くの船が係留され生活の営みが残っている。その一部がバーになっているのだ。

運河を渡る風は気持ち良く肌をなでてゆく。背景はワイルドな大阪の港湾だが、シチュエーションはベネチアのようだ。そのギャップがたまらない。微妙に揺れる床が、ここが水上だということを意識させ、いつもより酔いが早くまわる。場所の不安定さは、このバーの存在自体の不安定さも象徴しているようだ。現行法で解釈するとあり得ない場所。しかし歴史の文脈のなかで生まれ、存在し続け、市民に愛される場所。

僕はなぜか、こんな時間と制度のズレのなかで生まれる空間が好きだ。

baba_TAISHOKU

*こちらの記事は季刊誌『オルタナ37号(2014年6月30日発売)」に掲載された記事です。オルタナ

(文=馬場正尊)