新しいエリア・メディアの可能性

2011.12.6 | TEXT

僕は地図が好きで、小さなころから眺めるのが好きだった。理系なのに、地理がもっとも得意科目。地形や街の名前などから、その場所の風景を空想していた。その行為が、旅好きにも通じている。実際に自分の自で確かめたくなるからだ。

だから地図には不思議な思い入れがある。

いい街には、いい地図がある。例えばNYを旅するときに使った「NFT/Not For Tourists」という地図ブックは好きな地図のひとつで、自分でメモや情報を書き込めるようになっている。複雑で多様な街が地図を洗練させるのだと思う。

同時に思うことがある。いい地図ができると、その街がより魅力的になる、という現象だ。

「地図をつくる」という行為は、その街の情報を整理し、編集し、潜在約な魅力を人々に伝えることができる。

まちづくりや都市計画の仕事をするようになって、その力に改めて気づかされることになった。

「東京R不動産」を一緒に始めたメンバーの一人、編集者の安田洋平が、「CETMAP」という新しい地図をつくった。CET (Central East Tokyo)のエリアマップだ。

「CET」とは、東京の東側、東神田、裏日本橋一帯のことで、かつては問屋街たったのが、今ではギャラリーやショップ、アトリエの集積地になっている。僕の事務所、OpenAもそこにあり、「東京R不動産」発祥の地でもある。

この街で10年問、毎年秋にエリア全体の空き物件を時限的にギャラリー化するイベントを継続的に行った。最初は何もなかった街が、東京を代表する文化の集積地に変貌した。このマップはそのプロセスのなかで集まってきた人々とコンテンツを平面で把握できるようにしたものだ。

10年の時間の流れや、そこに変化してきた風景が編みこまれ、改めてこの街に集まったクリエイターやコンテンツ、そしておいしいものたちのネットワークが浮かび上がってくる。

「CETMAP」は、そこで仕事をする人々が自分たちのエリアのために編集した地図。新しいエリア・メディアの在り方を示しているような気がする。

情報デザインという概念を提示したりチャード・ソール・ワーマンが、『Understanding U.S.A』というデータを視覚化してひたすら並べる本を編集した。「全体を客観的に理解する」ことの大切さとすばらしさを学んだ本だ。情報が魅力的に視覚化されれば、それは物事を動かす力になることを、僕はそこから学んだ。

「CETMAP 」はバラバラたったエリアの情報を、ひとつの塊として表現できたことが、おそらく次の街の変化を誘発する。

地図をつくることは、まちづくりなのだと思う。

「CETMAP」は、エリア内のショップやカフェにフリーマップとして置いてあります。折り畳んでポケットのなかに突っ込んで歩けるサイズにまとめられているから、これを片手にCETを散策してほしい。

 

*こちらの記事は季刊誌『ケトル vol.3(2011年10月15日発売)』に「馬場正尊は安田洋平の地図「CET MAP」から新しいエリア・メディアの可能性をみる」というタイトルで掲載された記事です。

ケトル

(文=馬場正尊)