秋田の商業ビル「居住」で再生

2011.3.31 | TEXT

 

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地方再生の相談を、最近はときどき受けるようになった。

商業で元気がなくなってしまった商店街を、無理に商業で復活させようとするのではなく、そこに「住む」人々を増やすことから始めよう、という手法を使った。こうして始まったプロジェクトの一つが、秋田駅から徒歩5 分にある仲小路ビル。築40年ビルのリノベーションプロジェクトだ。

 写真の建物は、かつて喫茶店、ヤンキー(というかツッパリ)の制服店、ビリヤード場、ディスコなど、時代の隆盛を写す鏡のようにさまざまな店舗が入居してきた歴史がある。地元の人々は世代別に違った印象を抱いていて、「オレ、若い頃、あのピルで…」と、さまざまな記憶を口にする。そういう意味で、秋田のカルチャー史を象徴するビル。地域の思い出がつまっているのだ。

 依頼主のピルオーナーさんは、なんと「このビルに住みたい」と言ってきた。もちろん、このピルが住居だった歴史はない。ちなみに、住みたいという3 、4 階は、数年前までディスコだった。コンバージョンを多く手掛ける僕の事務所でも、まれに見る大胆な機能変換だ。

 大手術の結果、このビルは見事に生まれ変わった。3、4 階が住居、1 、2 階、がカフェや雑貨屋、地下が秋田の若いクリエイターたちのシェアオフィス。この時代ならではのラインナップで、空きビルが活気を取り戻した。中心に住居があるのが画期的だと思う。オーナーさんは街のために、郊外から便利な駅前に引っ越してきたのだ。

今、このピルはちょっとした商店街再生のシンボルになっている。この時代ならではの新しい思い出が、またここに蓄積されていくといい。

 

*こちらの記事は季刊誌『オルタナ23号(2011年1月31日発売)」に「秋田の商業ビル「居住」で再生」というタイトルで掲載された記事です。

オルタナ

(文=馬場正尊)