団地をホテルにするアート、 「サンセルフホテル」が浮かび上がらせたこと。

2014.2.18 | TEXT

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この二年間、取手アートプロジェクトの取り組みとして、郊外の団地をアートのフィールドにして活動する仕事に関わっている。そのプロセスのなかで直面したのは、この時代に何を持ってアートと呼ぶのか、それが何をもたらすのかという問題だった。

一枚の絵画や一つのオブジェによって人々が心を動かされることもある。しかし団地という日常の象徴のような場所で、何がアートたりえるのか? 建築分野ならば答えの方角は導きやすい。まずは空間を人々のために変えていけばいい。では日常の中のアートの存在意義とは? その答えの一端を「サンセルフホテル」に見た気がした。

 

「サンセルフホテル」というアートプロジェクト、それはちょっと複雑な構造をしている。アートが団地の日常の中に、じわじわ浸透していくような感じだ。サンセルフホテルの不思議なプログラムを簡単に説明する。

団地の空き部屋を、一晩だけホテルに変えるプロジェクト。これを仕掛ける作家は北澤潤、東京芸大・日比野研究室で博士課程に属している。

宿泊するゲストは公募によって選ばれた家族。それをもてなすのは団地の住人たちだ。北澤がプロジェクトの内容を団地内に告知し、それに集まった有志たちによってホテルマンのチームがつくられる。どんな人々が集まるかは偶然に委ねられている。小学生から、長年ここに住んでいる65歳まで、十数人が集まった。彼らは毎週、ワークショップを開き、どのようなホテルにするか、どんなサービスを提供するかを話し合い、誰がどんな役割を果たすかを決めていく。作家の北澤はそのきっかけはつくるが、具体的な指示はしない。参加したメンバーが自発的に動くのに寄り添っているような感じだろうか。

いつしかメンバーがそれぞれの役割を発見し、企画内容をつめていく。彼らは少しずつホテルマンになっていく。北澤は会議に出たり出なかったり、主体は作家から団地の住民にいつのまにか移ってゆく。ホテルマンとなった住民たちが手づくりで団地の部屋を客室へつくり変え、ゲストを迎え入れる日を待つ。まだ見ぬお客さんの幸せな顔を思い浮かべながら

サンセルフホテルの宿泊客は、太陽が出ている間に、特製のソーラーワゴンを引き、太陽光を追いかけて充電しなければならない。その電気のみで1泊分の電力をまかない、さらに夜、団地の真ん中にヘリウムガスバルーンの人工太陽に光を灯さなければならない。ホテルマンと宿泊客が協力し合い、自分たちの太陽をつくりあげる。日が暮れて、みんなでつくった太陽を眺める、住民とお客さんとの、何ともいえない一体感を感じる時間が訪れる。

この奇妙な関係は、ゲストとホテルマンの間に独特の絆を生む。ホテルマンたちは我が団地へやってきた客人をもてなす。今までは顔見知りというだけであった住民同士だが、いつしか大きな家族のようになり、お互いの得意なことも分かり合っている。サンセルフホテルは団地の住民が団地の魅力を伝える担い手として、いきいきと活動する場になっていく。

 

作家の北澤はそのプロセスにつかず離れずコミットし続ける。その距離感が独特であり、アートたらしめている。その様子はドキュメント化され、それ自体が作品になっていく。それはクリストを思い起こさせるが、しかし作品のなかに個人が巻き込まれてく様子や、作家の作品に対する関わり方が違っている。偶然や参加者に委ねる部分がずっと大きい。

 

サンセルフホテルとは何なのか?

参加者がそれぞれの役割を「演じている」という意味で、演劇でもある。住民たちが新たな交流を始めるという意味で、コミュニティデザインという見方もできる。団地をホテルへ一時的にコンバージョンしているのは、建築としても示唆的だ。サンセルフホテルはそのすべてであり、どの領域でも捉えられない。捉えられないからこそアートなのかもしれない。

今、アートの位置づけや、それが持つメッセージも変化している。妻有や瀬戸内のように、自然や地方の風景のなかで生まれるアートもある。今でもアートマーケットは健在で、高値で取引される作品もある。デザインや音楽と融合しながらエンタエイメントを帯びる場合もある。

今、アートが持つインパクトとは何なのか。僕らは、社会は、時代は、何をアートに求めるのか。サンセルフホテルという作品、プロジェクト、ワークショップ、現象・・・。それは日常の一部のような作品。アートの形式はここまで流動的でもいいのかと、正直戸惑いながら見ていた。同時にアートが地域やコミュニティ、個人の生活にどんどん介入してくる様に、新しいアートの浸透力を見た。今までのアートはどちらかというとインパクトや違和感で存在感を示していたと思う。しかしこの作品はジワジワと日常のなかに入り込む。

 

今度、2/28(金)千代田アーツ3331で「サンセルフホテル」を巡るシンポジウムを行うことになった。このプロジェクトの正体について考えることは、今のアートや演劇、建築、コミュニティについて考えることに繋がると思う。

「サンセルフホテル」とは、何なのだろうか。

 

申し込みや詳しい情報は下記。

http://www.toride-ap.gr.jp/news/?p=1514