六本木ヒルズとR-project

2003.4.15 | TEXT

六本木ヒルズ

六本木ヒルズ

もうすぐ六本木ヒルズがオープンする。
僕はいつも不思議な感覚であの巨大なビルを見ている。それが廃墟のように見えるからだ。こう書くと誤解をされそうだけど、実は、僕はあのビルが好きなのだ。
特に六本木トンネルを抜けて目の前がその巨大な塊でいっぱいになる瞬間が気に入っている。忽然とそびえるそのボリュームの大きさに、ふと現実感を失い、へんな浮遊感を感じる。テナントが入る前の電気のついていない真っ暗な高層ビルは、SFで描かれた未来のようにも、廃虚となった遺跡のようにも見える。
そして僕は妄想する。あのビルは妄想を助長する不思議な力を持っている。それはたぶん、そのビルが妄想からつくられたものだからだ。
400年経ったとしよう。400年後も、たぶん建っているはずだから。

宮崎駿が描く未来都市のように、それは植物に浸食されている。温暖化で海水面が上昇し、足下は水で覆われている。
ロケットのようにも見える。そのまま空に浮いてどこかへ飛行していく。昔、そういうSFマンガを見た。都市ごと浮遊しているのだ。このビルはなぜかそれに似ている。
武装しているかもしれない。砲台が窓から突き出し、そこから火を噴いている。時期が時期だけに、この妄想はちょっと危ない。友人の小阪淳(REALTOKYOのアートディレクター)が描いたグラフィックの印象が呼び起こしたものだと思う。(http://www.jun.com/kosaka/sfm/tower.html
大友克洋の描く廃墟とは特に相性がいい。壁の一部がなくなり、向こう側が見える。そのなかで小さく動く人影がある。時々、落下している。ん、この妄想もやばい。
テーマソングは沢田研二の「TOKIO」だ。空を飛んだり、真っ赤に燃え上がったりしている。今の東京でこの歌が似合うのはここだけだ。

とにもかくにも、あのビルを見ていると妄想が暴走する。でもそれは確かに建物として存在している。あのビルの中に入ると巨大なアンリアルのなかに、なんだか溶けてしまいそうだ。
こんなことを、六本木ヒルズを推進する森ビルの幹部に向かって、混雑する最終電車のなかで話したことがある。もちろん酔っていた。
都市は、やはり人間の巨大な妄想を引き出す装置じゃなきゃいけない。

 

さて、僕は正反対のことをやっている。R-projectは、たぶんそれと補完関係にある。妄想の足元の雑多なカオスもまた僕は好きなのだ。
東京は永遠に拡大していくものなのだと、なんとなく思っていた。でも、どうもそうでもないらしい。巨大都市の盛衰の周期は歴史的に見て400年程度であると都市計画家の尾島俊雄が述べていたが、東京も例外ではないのかもしれない。僕らはその減衰の縁の部分にいる。
この40年を見ただけでも、日本の建物の床面積の合計はなんと4倍になっている。一方、人口は1.2倍しか増えていない。建物をつくり過ぎたことは明らかだ。でも、やっぱり僕らはつくり、壊す。
2003年は、東京にとって重要な意味を持つ年になるかもしれないと思っている。21世紀の幕開けは静かにやってきて静かに過ぎていったように見えたが、実はこの2003年が都市の価値観をスイッチするのに適切なタイミングのように思えるのだ。今までのあらゆることのツケの結果が、この2003年に一度出てしまう。もうすぐ戦争も始まる。

合羽橋の物件

合羽橋の物件

合羽橋で10年以上廃墟だったオフィスビルをコンバージョンした物件を見た。おそらく、日本で最初の本格的な住空間への機能転換を図ったものだ。もちろん、法的には住居というカテゴリーではなくあくまで「オフィスに寝る空間とシャワー空間がある」だけっていう扱いでしかないが。住人たちがとてもいい過ごし方をしていた。家賃も安かった。まだ空いている部屋があるらしいので、興味ある方は連絡してみるといい。(0120-296-429 Lives編集部)

池尻中学校のプール。体育館の屋上がそのままプールに。空中プール

池尻中学校のプール。体育館の屋上がそのままプールに。空中プール

R-projectではどこか廃校を見つけて、何かがやれないかと眈々とねらっている。R-bookでも取材した、、NYのPS1という小学校を現代美術館にした事例が印象的で、そんなことをやってみたいと、ずっと思っていた。そこは若いアーティストの登竜門になっているのと同時に、地域コミュニティの核にもなっていた。その格好の物件を見つけた。世田谷の池尻中学校が来年、廃校になってしまうのだ。あんな人口の多いとこ、およそ信じられないが本当らしい。世田谷公園の隣、三宿交差点の直近、あらゆる条件が揃っている。さて、ここでどんなことを起こすのか。4月5日(土)13:00~、現地を見ながら、それをみんなで考えるイベントを行うので、ヒマな人は是非。とくにプールがいいんだ。

 

*こちらの記事はWEBマガジン「REAL TOKYO」に「六本木ヒルズとR-project」というタイトルで掲載された記事です。

(文=馬場正尊)