東北に「新しいふるさと」を

2011.10.30 | TEXT

「新しいふるさと」は、宮城県のあるエリアでの展開を想定している 制作ディレクション:竹内昌義、三浦秀一、馬場正尊/制作:後藤拓朗

「新しいふるさと」は、宮城県のあるエリアでの展開を想定している
制作ディレクション:竹内昌義、三浦秀一、馬場正尊/制作:後藤拓朗

この絵を「新しいふるさと」と呼んでいる。

震災を受けた街でさまざまな復興のプロジェクトが始まろうとしている。その情報の断片がぽつぽつと耳に入って来るのだが、東京で考えられている復興計画はどこかよそよそしくて微妙な違和感を持っている。

僕が教えている東北芸術工科大学では、たくさんの生徒たちが被災した。被災地に近いからボランティアに行く学生も多く、いやおうなしに身近な現実として立ちはだかっている。東北で生まれ育った彼らと、本当に住みたいこれからの東北の集落、住環境について考え始めたのがこの絵だ。

「新しいふるさと」に描かれているのは、素朴でどこか懐かしきの残る木造の住宅や公共施設。それらは特別な形をしているわけではなく、ピカピカの未来を標携しているわけでもない。
山あいに適度な距離を保ちながら、素朴な家々が建っている。ただし断熱性能やサッシの性能が高く、太陽光パネルが乗り、技術によって快適な住環境が保たれている。集落は小規模水力や風力によるエネルギーに支えられている。外見は素朴だが、洗練され自律性の高いエネルギーシステムが整えられている集落だ。

現在、日本の家々と集落はコントロールされたグリッドの中にあり、そのグリッドから切り離されてしまうと立ち行かなくなる。僕らはそれを当然のこととして受け止めていた。それが時に脆いことが明らかになった。

だとするならば、僕らは最低限のバックアップとして、グリッドから切り離された瞬間も向立できるシステムを集落単位にコンパクトにつくっておくべきだと思う。この絵の風景を具体的に想像し始めると、それは難しいことではない。

 

*こちらの記事は季刊誌『オルタナ26号(2011年9月30日発売)」に「東北に「新しいふるさと」を」というタイトルで掲載された記事です。

オルタナ

(文=馬場正尊)